ペクレールは毎年、未来学や社会学、記号学、戦略などのあらゆる分野の専門家を集め、世界の進化の兆候を特定します。願望や信念、自己及び他者との関係におけるこの微かな揺らぎは、短期~中期的に消費者の景観を変えるものです。この調査は信念、自然、快楽志向、アイデンティティ、科学、時空間という6つの軸を中心に展開され、消費者インテリジェンスとトレンド予測(美意識と製品用途)の両分野に生かされています。

ここでは、最新の未来予測の会議から、自然に関する「創造的な喧噪」についての分析を紹介します。異なる文化を結びつけることで融和を図り、課題を解決し、望ましい未来を提示する、新しい創造的なアプローチです。

希望に満ちた瞑想から、持続可能なバランスの探求へ

環境危機が切迫する中で、自然とその独創性を観察しながら解決策を探すことは、あまりにも時間がかかり過ぎます。それにも関わらず、人々は自然と文化の穏やかな調和を心に描き、安心感のある信念に解決策を求めています。さらにこの自然観は科学の影響を受けており、自然と技術の対立を解消しつつ、産業化可能で具体的な方法による、新しいエデンの創造を目指しています。

そしてこの現象が、様々な形で表出しています。例えば、個人レベルでは、持続可能性を実現する「魔法の公式」を求めて、複数の解決策や信念を取り入れつつ、それらを調和させようとしています。一方で、思想家や科学者、クリエーターたちは、時に具体的な解決策、時に空想的な解決策で、気候危機に対処しています。同時に、自然環境下での自給自足が、世界の再建を目指す人々の夢として、ロマンチックに描写されています。

マクロトレンド 1:夢のような未来のイメージ

2022年の未来予測会議で取り上げた2つのテーマ、「人と自然が相互につながる」ファンタジーの世界と、「神秘的な神話のような自然観」が交わり、これまでになく急進的な自然再生の夢が生まれています。

ディストピア小説のテーマにもされてきたテクノロジーは今や、環境保護と結びつき、空想の世界にまで広がっています。世界的にヒットした映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」や、それに起因する抑鬱症(*)の発生など、自然とテクノロジーが融合する未来のエデンに逃避したいという幻想が、現実世界の不安を浮き彫りにしています。これらのフィクションに見られる詩的な表現は、テクノロジーと自然を分離させない柔軟な視点を持つことを促しているのです。

* 1作目の公開後、「Urban Dictionnary」にPADS(ポスト・アバター鬱症候群)という言葉が掲載された。

パリの狩猟自然博物館で開催された展覧会「Uchronie」(2023年)

「もし、地球上の生物が違った進化を遂げていたら?動物に詩の才能があったら?地球上にいながら火星を歩いていたら?」実際に起こり得たかもしれない出来事を交え、架空の歴史を再構築する「Uchronie」展。その展示は、多くの混乱を招くパラレルな物語を描き出しました。

キートレンド① 実験的なバイオバース

動植物が生態系のバランスを維持する上で重要な役割を果たす一方で、直面している危険(主に人間の手によるもの)が将来、それらを進化させていくだろうという想像が広がっています。生物の美しさを新たな視点で見つめ直すと同時に、クリエーターたちは魅惑的な 自然を生み出しているのです。テクノロジーと夢、実験とファンタジーが入り混じる未来的なエデンを築き、自然が人によって変容し、人の病を癒すような世界が描き出されています。

2022年ミラノトリエンナーレで展示された、Daniel Godínez Nivónによる「Essay on Oneiric Flora」

Carina Shoshtaryのフェイスジュエリーを着用したシンガーのSynne Sanden。ノルウェー、2023年

形を変える夢 ― 自然との触れ合いは癒しをもたらします。自然に対する見方を変えることが生命を救うことになるかもしれません。アーティストのDaniel Godínez Nivónは、想像の風景を思索しています。夢が情報を伝達すると考えるメキシコの助産師の伝統的な慣習(*)に倣い、セラピーワークショップで子どもたちに夢を語らせました。そして子供たちの夢を基に、科学者たちと協力し、まるで実在するかのような新しい空想上の動植物を生み出しています。

*メキシコの助産師の伝統的な実践では、妊娠中の女性が見る夢を解釈することに特に重点を置き、夢は赤ちゃんや出産に関する情報や警告を提供すると信じられている。助産師は、夢の内容を通じて妊娠の進行や出産の可能性について指示を得ることがある。

有機的なセラピー ― 自然にインスパイアされた治療法が、私たちと世界との関係を新たにする一方で、魅力的な水中世界から新たな美的表現が生まれています。Carina Shoshtaryのジュエリーは、人と自然の双方に恩恵をもたらす、ハイブリッドな世界を想像させます。歌手のSynne Sandenのために、人と自然が調和するストーリーを描き、生物とつながる水中センサーをイメージしたフェイスジュエリーを制作しました。

キートレンド② 生物の声

人は生物との支配的な関係を逆転させようと奮闘しています。同時に、生物たちとの交わりを求め、相互につながることを夢見ています。そして、批判的思考の象徴であり、人間固有の特徴であると考えられている言語が、動物界のフィクションに盛り込まれ、こうした力関係に疑問を投げかけます。言語を得た動物たちは人間化し、共同体の中で個人となり、仲間とのコミュニケーションを始めます。すると人は、動物たちをモノとしてではなく、存在として考えざるを得なくなります。例えばアーティストたちは、自然の音に声を与え、新しい感性豊かな物語を紡いでいます。

トム・マスティル著「How to Speak Whale」Grand Central Publishing、アメリカ、2022年
ベン・フロストが音楽を手掛けたリチャード・モスの映像作品「Broken Spectre」、オーストラリア、2022年

自然に役立つテクノロジー ― 新しいテクノロジーは、これから到来する新しい文明を想像させます。動物映像作家のトム・マスティルは、言語ベースのAIを開発する企業家との出会いを経て、クジラとの種を超えた交流が可能になる未来を想像しています。動物の内面を理解することは、動物を尊敬することにもつながり、私たちの自然界に対する見方や、自然保護の方法を変えていくでしょう。

聞こえない音を可聴化する ー 自然の音や環境音を録音するフィールド・レコーディングは、人の営みから隔たれた環境の複雑さを明らかにします。ミュージシャンのベン・フロストは、環境に関する映像作品「Broken Spectre」のために、アマゾンの熱帯雨林の音を録音し、環境災害の音楽へと変換しました。超音波マイクを使って、通常は聞こえないコウモリや鳥、昆虫の声を録音し、生態系に関する豊かな物語を作り上げています。

このマクロトレンドの活用法

リテール

デジタル世界と生物界の参照を組み合わせて、物理的世界とデジタルの両方で、消費者を魅惑的な世界に没入させる。

コミュニケーション

特に音に注意を払い、夢のような植物の世界に没入させるコミュニケーションの方法を考案する。合成の「無菌」の音とはほど遠い、環境を構成する最も微細な音を聞かせる。

製品

革新的なテクニカル素材の開発やAIを活用した参照のハイブリッド化、組み込み技術を活用して、動植物のファンタジー的な側面にインスパイアされた製品を生み出す。

未来の展望:誰のために、何のために、そしてどのように。

未来の洞察は、創造性を育みます。ペクレールは、ブランドの独自性を保ちつつ、変化する社会の価値観に対応する方法を考えます。

毎年、ペクレールはさまざまな分野の専門家を結集して未来予測の会議を開催し、それを 詳細に文書化しています。これは私たちにとって未来のバイブルとなるものです。そして、インタラクティブなワークショップを通して、この洞察をパートナー企業と共有します。また、ファッション、ビューティ、デザイン、消費財などの分野のブランドストラテジストや専門家が、これらのトレンドを各社の戦略的要素に変換するサポートをしています。

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