2024年1月18日~22日に開催されたメゾン・エ・オブジェのテーマは「テックエデン:新たな自然の目覚め」。持続可能な未来の基盤となる、科学と自然の関係の進化を探ります。そして、このシーズンの「INSPIRE ME!」フォーラムは、自然とテクノロジーが融合するホスピタリティの未来に焦点を当てています。このフォーラムで展示された作品のデザイナーに、そのヴィジョンについて聞いてみました。

スペクトルームとジェンコルクのジェネレーティブ・コンピューティング・デザイナー&クリエイティブディレクター、ル・ブリメ(Le Brimet)へのインタビュー

ジェンコルク(GENCORK)とスペクトルーム([SPECTROOM])について簡単に紹介してください。どのように生まれ、どのような未来を描いていますか?

ジェンコルクはソファルカ(SOFALCA)によるジェネレーティブなコルク・ソリューションに特化したデザインブランドで、持続可能な素材、生成系コンピューティング、高度な製造プロセスの共生を探求しています。創造性とテクノロジー、持続可能性、そして人間の感情をシームレスに対話させ、融合します。私たちは創造のプロセスにおいて、生物学、数学、幾何学に基づくジェネレーティブデザインのアルゴリズムを使用し、環境負荷を与えない100%天然のブラックコルクを加工します。コルクパネルの製造においては、工業的なデジタル製造プロセスを駆使しながら、従来のコルク製品にはない新たな可能性を開き、全く新しい形状と美的表現を創り出しています。このデジタルクリエイティブシステムは、コルクの断熱および音響特性を最適化するだけでなく、美的価値も与え、それを見る人々の感情や感覚を高めます。このブランドのクリエイティブ・ディレクションは、ジェネレーティブデザインや素材研究、デジタル製造を得意とする建築事務所/デザインスタジオ/クリエイティブ&リサーチラボであるスペクトルームが担当しています。私は、プロダクトデザイン、アートインスタレーション、インテリアデザイン、建築、デジタルリサーチなど、さまざまな分野にまたがる学際的な活動とプロジェクトを率いています。そして、スペクトルームは、形や空間の制作に新しいテクノロジーを活用し、持続可能な新素材や生成プロセス(コンピュテーショナルデザイン)、人工知能、デジタル・ファブリケーション技術(3Dプリンティング、CNC/コンピュータ数値制御、レーザーカット、ロボット工学)の最適な組み合わせを探求しています。

ポルトガルのアブランテスを拠点とするこのブランドは、ローカルな構造とグローバルな戦略的ヴィジョンを持ち、絶えず変化する生きたシステムでもあります。50年以上の経験を持つパウロ・エストラーダが率いるコルク産業と、好奇心旺盛で革新的なクリエイティブマインドを持つ新世代の完璧な組み合わせから生まれました。私たちは、自然とテクノロジーのつながりである「ナチュオロジー(自然学)」を中心に未来をデザインしています。フランク・ロイド・ライトは「自然を学び、自然を愛し、自然に寄り添いなさい。自然は決してあなたを裏切らない」と語っています。私たちは自然から学び、その発生と進化の過程を理解しようとしています。そして、得られた知識は創造的な根となり、テクノロジーの木に革新と創造性の果実を実らせるのです。

2024年1月のメゾン・エ・オブジェ「テックエデン」フォーラムで発表されたインスタレーション「ザ・サークル(The C(AI)rcle)」について教えてください。

メゾン・エ・オブジェの「テックエデン」は、自然界とデジタル界をつなぐハイブリッドな理想の庭園です。テクノロジーによる創造的な実験により、デザインの未来について考察するこの豊かな生態系において、ジェンコルクは、自然とテクノロジーの共生である「自然学」のコンセプトを探求しています。近年の文明の進化は人間中心主義、つまり人間を宇宙の中心に置くイデオロギーが、応用科学、芸術、人文科学を大きく発展させてきました。しかし、気候変動や世界的なパンデミックを経験した人類は、立ち止まり、生き方や地球との関わり方を見直す必要に迫られています。現在では環境に対する意識が高まり、自然の本質を理解し、尊重することが緊急の課題です。人間は時代の産物です。時代ごとに新しい社会的、政治的、技術的、経済的、自然的枠組みが定義され、それが直接的、または間接的に創造的表現や文化の進化に影響を与えます。今日、テクノロジーはもはやトレンドではなく、避けられない結果として、時代や社会に必然的な影響を与えています。人工知能がメディアを席巻する今、スペクトルームはジェンコルクのためにインスタレーション「ザ・サークル」をデザインしました。これは、人工知能、ジェネレーティブデザイン、アート、そして持続可能性のつながりを探求する、ブラックコルク製の円形のクラウド(雲)です。

バイオミメティクス(生物模倣)に基づき、有機的な自然を再現した円形の構造は、アルゴリズムと人間によって共創されたものであり、現代アートとデザインの新たな道を切り開きました。ザ・サークルは、先駆的な世界観を持続可能な形で表明します。また、ザ・サークルは、新しい視点で見つめるべき私たちの惑星そのものなのです。

あなたのアプローチでは、革新的な素材の研究開発とデザインが一つのものとして扱われているようですが、研究開発を刺激するのはデザインなのでしょうか?それとも研究開発がデザインへの扉を開くのでしょうか?

デザインと研究開発の関係については、古くから言われているニワトリと卵の話に似ています。どちらが先なのか?この原因と結果の論理ですが、私たちの作業方法において、この2つは必然的に調和します。それぞれが独立して成立しないプロセスであり、一方のスイッチを切って他方のスイッチを入れるということではないのです。このアプローチは、より「量子的」で非連続的なものであり、秘密はその間の空間を探ることにあります。このグレーゾーンは、創造的なアイデアの芽生えを促す肥沃な大地です。予期せぬ結果を得るために、未知の領域を探求することが、スペクトルームとジェンコルクに共通する哲学「純粋実験主義」なのです。創造的な行為は、実験や形状の探求、試行錯誤の原則に基づいています。探索的なプロセスに従い、だんだんと形が作られていくのです。

研究開発は、プロセスの中の様々な段階に存在し、革新的な素材というだけで終わることはありません。それどころか、原料、原料から素材への変換、(ソフトウェアとハードウェアを通じた)形の具体化、そしてその物質性(意味、使用目的、ユーザー体験)など、他のすべての活動領域に影響を及ぼします。私たちのヴィジョンはオープンで、包括的です。これらのポイントうち、1つでも革新できない場合は、さらに鋭い方法で研究を続ける必要があると考えています。そして、昔ながらの科学的な調査方法が、アイデアの発展に大いに役立っています。つまり、私たちは好奇心に導かれているのであり、それこそがイノベーションへの扉を開く創造的行為の鍵なのです。アメリカの建築家/デザイナー、バックミンスター・フラーが「学んだことは決して減ることはなく、常により多くを学ぶことができる」と語ったように。

将来、建材や仕上げ材は、それ自体が装飾的要素になるのでしょうか?コルクを使って何を作りたいですか?

私は、付属品や余分なもの、一時的なものとしての装飾という概念自体を信じていません。しかし、「装飾」という言葉の語源をたどると、飾り、美化し、敬意を表す行為に行き着きます。様式や時代に関わらず、機能的なものに価値や意味を与えようとする人間の意志があることを、歴史が物語っています。人が、ある要素に魂やアイデンティティを与えようとするのは自然な欲求なのです。

形と機能という古典的な二分法に言及することもできますが、骨と皮膚の関係はもっと直感的です。ある素材が構造的に堅牢である(骨)と同時に、見た目にも美しく魅力的である(皮膚)ためには、物理的特性と化学的特性の完璧な組み合わせが必要です。紀元前1世紀の建築家、ウィトルウィウスによって提唱された建築の三大要素は「強・用・美(構造、機能、美しさ)」です。建築やデザインの分野でイノベーションを起こすには、感覚と本質が欠かせません。また、バックミンスター・フラーはこう言っています「既存の現実と戦っても、何も変わらない。何かを変えるには、既存のモデルを陳腐化させるような新しいモデルを構築することだ」。

簡単に言えば、新しい建物は革新的な特徴を備えているべきであり、したがって、未来の建材は構造的に一貫性があり、新しい機能に適応し、美しく魅力的であり、そして環境に優しいものでなければなりません。コルクは柔軟性があり、多用途に使用できる優れた素材であり、ものづくりのさまざまな領域にマッチします。「ファニテクチャー」(家具 + 建築)の概念は、形状に関する私たちの研究において重要な位置を占めており、さらに最近では、人工知能 (AI) の概念を作業の流れに組み込むことで、可能性が無限に開かれ、自然と結びつくバイオミメティック(生物模倣的)なジェネレーティブデザインという概念を生み出しました。

製造や耐久性、デザイン、機械的特性といった面で、コルクの利点とは何でしょうか?

ソファルカのエキスパンドブラックコルクは、高温の蒸気で蒸し焼きにし、体積の膨張とコルクから滲み出す樹脂により、コルクの粒子を結合させる、100%天然の製品です。これにより、接着剤や塗料、または添加剤を一切使用せず、コルクのみで構成された凝集体が生まれます。そしてこれは、本質的に持続可能な素材です。コルクは軽量で弾力性があり、液体やガスをほとんど通さず、優れた断熱性と防音性があり、耐火性にも優れています。また、コルクは最先端の製造技術にも容易に適応できる素晴らしい素材であり、デザイナーや建築家に幅広い創造的なソリューションを提供します。

新しいテクノロジーは、これまでできなかったことを可能にしてくれますか? 技術は、自然を「拡張」することができるのでしょうか?

新しいテクノロジーによるイノベーションは、単純に直線的に進化するものではありません。具体的な取り組みの前に、創造のプロセスにおいてイノベーションがどのように現れ、展開されるかを理解しておくことが重要です。テクノロジーには、いくつかのバリエーションとフレームワークがあります。 中でも 私たちの実践においては、ソフトウェアとハードウェアという2つの領域が重要です。ソフトウェアには、コンピューティング(コンピュータを用いる活動全般)とコンピュータ化という、互いを補完する2つの異なるテーマが含まれています。

2006年、コスタス・テルジディスは「アルゴリズミック・アーキテクチュア」という本を出版し、これらの2つのテーマの違いについて探求しました。コンピューティングは、デジタルでの創造的行為(アルゴリズム)に用いられます。これらのアルゴリズムは、数学的/幾何学的/バイオミメティクス的な原理に基づいています。バイオミメティクス(生物模倣)は、動植物や自然現象の構造を理解するための科学であり、いくつかの進化的アルゴリズムの起源となった技術です。

ニコラス・ネグロポンテ(MITメディアラボ創設者)は「コンピューティングはもはやコンピュータのことではありません。それは私たちと共に生きているのです」と語っています。コンピューティングは、私たちの創造的な哲学を定義する上で不可欠な生成プロセスであり、未来についてのアイデアを創造し、世界と共有するための方法なのです。

コンピュータ化の使用は、はるかに機能的です。コンピュータ支援設計(CAD)は技術的なツールであり、必ずしも破壊的ではなく、単純な問題や日常のタスクの解決に役立ちます。ハードウェアは、私たちのワークフローにおいて、ピクセルを物質化するものです。ジェネレーティブパネル「ジェンコルク」の製造では、数値制御(CNC)を通じたコンピュータ支援製造(CAM)が採用されています。1970年に、減算製造プロセス(切削工具を使って材料を削る方法)が発明されたことは興味深いポイントです。この技術は最近のものではありませんが、新しい形や方法を探求するための手段となっています。このような既存の技術を使って革新的なアイデアを生み出すには、人間の要素が不可欠です。しかし、ジェネレーティブデザインとCAMシステム、ロボット工学、3Dプリンティングの新たな組み合わせが、創造のプロセスを加速させ、生産プロセスをより強力で、厳密なものにします。つまり、テクノロジーは抽象的な概念を具体的な形に変換する強力な手段なのです。

しかし、新しいテクノロジーは単なる技術的なツールにとどまらず、私たちが新しい形を開発するのを助けてくれる創造的なパートナーであり、デジタルのサポートによって、人間の思考が到達できないような複雑さや美しさのレベルを実現することができるのです。テクノロジーが私たちに自然を理解し、対話することを可能にし、自然をより良く理解するための基礎となり、その結果、私たちの精神と技能を発展させる。これが私たちの追求する「自然学」なのです。

2024年1月18日から22日まで開催されたメゾン・エ・オブジェの「INSPIRE ME!」フォーラムでは、ジェンコルクによるアーティスティックな作品が展示され、科学と自然の調和から生まれる、新しいホスピタリティの形を実現しました。

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