ペクレールは毎年、未来学や社会学、記号学、戦略などのあらゆる分野の専門家を集め、 世界の進化の兆候を特定します。願望や信念、自己及び他者との関係におけるこの微かな揺らぎは、短期~中期的に消費者の景観を変えるものです。この調査は信念、自然、快楽志向、アイデンティティ、科学、時空間という6つの軸を中心に展開され、消費者インテリジェンスとトレンド予測(美意識と製品用途)の両分野に生かされています。ここでは、最新の未来予測の会議から、信念に関する「創造的な喧噪」についての分析を紹介します。異なる文化を結びつけることで融和を図り、課題を解決し、望ましい未来を提示する、新しい創造的なアプローチです。
共有資源の再評価から、反伝統的な自己実現へ
集団的でダイナミックな盛り上がりによって社会を再構築しようとする動きが、ひとりひとりの意味の追求へと移り変わっています。フィクションや最近の出来事からのナラティブ(*)は、長期的な視点で共通性を再定義する手段としての機能が薄れ、むしろ即時的な想像の源としての役割が拡大しています。危機に立ち向かう日々の中で、人々は喜びを求め、生きているという実感や満足感を取り戻す方法を模索しています。
* ナラティブ … 物事や出来事に対して、人々が自分の視点や経験を通じて語ること。
これまで「現実」と見なされるものを構成してきた規範や領域が覆されつつあります。反伝統が、新たな想像力とユートピアの創造に影響を与える哲学となるのです。そして伝統的な「趣味の良さ」に対抗し、「平凡な現実」を揺り動かす、新たな想像力の探求が 過激化しています。現実を活気づけ、世界を前進させる信念を取り戻すためならば、手段に良し悪しはありません。豊かな創造性を通じて、人々に共通する新たな想像が膨らんでいます。そしてこれが、経済的・社会的な成功条件としての仕事、社会変革における深刻さや 厳格さ、相反するものの分立、現実と想像の分離など、現代世界の基盤となるナラティブに揺さぶりをかけています。
マクロトレンド 1:和める創造
未来を楽観的に見ることが難しいとすれば、それは私たちの想像力が妨げられているからかもしれません。かつては未来への希望に満ちていたSF(2022年未来予測会議での信念に関する分析)も、今では現実に根差しすぎており、望ましい未来を描く手助けにはなっていないようです。
まだ見ぬ未来を想像するためには、新たな解決策を見つけ、世界の見方を変える必要があります。想像の世界を混合することで、出会うはずのない異なるもの同士が出会い、創造の言語を新たにすることができるのです。文化の混合、相反するものの混合、参照の混合といった異なるものの調和が、新しい共通の言語を生み出す手段となります。
インド文化とSFを組み合わせ、独自のイメージを広げるプラティーク・アローラ。異なるものを融合させることで創造の領域を広げ、あらゆることが可能であるかのように、新しい想像の世界を描き出します。
キートレンド① 非現実の地図
「すべては既に行われてしまい、新しいことは起こせない」と感じ、社会全体で共有される信念や価値観が薄れていると思うならば、私たちは今すぐにも創造のあり方を変え、見かけの可能性を超えていく必要があります。ありふれたものを超越し、既存のものを越えて想像力を広げるためには、集団的な想像力を分類することが不可欠です。異なるものをまとめることで、その境界を揺るがすことができます。参照の混合、相反するものの出会い、創造的な推測、現実の占拠…これらは、既存のものを超え、新しい創造的な世界を生み出す方法なのです。
AIの導入により、思いもよらない未知の世界が広がり、多くの人々に創造性の扉が開かれています。AI企業のNomicは、数百万に及ぶ画像の内容を分析してラベル付けし、地図のように可視化するオープンソースソフトウェア「Atlas」を提供しています。このプラットフォームは、私たちのつながりや共通の傾向を視覚的に示すことにより、同時に未知の領域やまだ存在しないアイディアを想像させます。創造的なプロセスは、個々のアイデアや発想を生み出すだけでなく、共同体や社会全体で進化し、発展するためのツールとして機能します。
想像を通して解決策を導く科学、パタフィジックは、一歩先の発見を可能にする、異常で 奇妙なものを高く評価します。このフィリップ・スタルクによる展示は「別の宇宙への扉を開き」、架空のパリの街を旅する夢幻の体験へと誘います。相反するもの、使い道のないもの、複合的で超現実的なパリのイメージや偽物を、まるで実際のものであるかのように展示するなど、意図的に非現実的なアイデアを活用することにより、新しい視点や発想を生み 出し、創造の領域を進化させています。
キートレンド② 創造性豊かなインターセクショナリティ
これまで、個々のアイデンティティの構築という文脈で取り上げられてきた(2022年未来予測会議 / アイデンティティ)「インターセクショナリティ(*)」は今、創造的な力となりつつあります。アイデンティティと文化の重なりは、多様な視点を必要としています。コミュニティは文化の盗用(*)に対抗し、文化を称賛するため、アートとアクティビズムが融合する新しい未知の領域を切り開きつつあります。そして、よりコミットしたオルタナティブな文化が生まれています。
* インターセクショナリティ(交差性)… 人種や性別、階級、性的指向、性自認など複数の個人のアイデンティティが組み合わさることによって起こる差別を可視化するための概念。
* 文化の盗用… 支配的な立場にある文化が、主にマイノリティーの文化を不適切に取り入れること。
語られることのない個人的な物語に物理的な空間を与えることにより、その体験を集団で共有することが可能になります。ライフスタイル・ブランドのメゾン・シャトー・ルージュが支援するユニオン・ドゥ・ラ・ジュネス・インターナショナルは、パリ18区のシンボルであったTatiの店舗跡に設立された文化センターです。人間の本質と人間性について思い起こさせるために設立されたこのセンターは、ディアスポラ文化(*)と現代ファッションの交差に価値を置きます。
* ディアスポラ文化 … 異国の地で自国の文化にも異国の文化にもどちらにも属さない、「文化の狭間」を生きる人々の文化。
文化の融合は多くのコミュニティの基盤であり、新しい世界の創造を導いてきました。この展覧会「ブラック・インディアンズ(*)」は、ルイジアナ州のアフリカ系アメリカ人によるカーニバルの創造性に敬意を表したものです。この社会的なイベントは、奴隷の先祖やネイティブアメリカンのコミュニティの記憶を伝える象徴です。文化の融合は、意識と敬意をもって扱われることで、違いを称賛し、命を吹き込むことができるのです。
* マルディグラ・インディアンとも呼ばれ、ネイティブアメリカンの儀礼的な衣服に影響を受けたコスチュームで着飾り、パレードを行う。
このマクロトレンドの活用法
•リテール
様々なアーティストと協力し、彼らの世界をハイブリッドし、没入感のある驚くような売り場をつくる。消費者がこれらのアーティストと出会える、リアルなイベントを開催する。
•コミュニケーション
コミュニティに自分の作品を投稿してもらい、AIを使ってグループ化し、オンライン上の地図を製作して可視化する。
•製品
製品企画の最初の段階(アイデア出し、初期のスケッチなど)にAIを活用して、予期せぬ参照を混合することで、創造性の垣根を取り払う。
未来の展望:誰のために、何のために、そしてどのように。
未来の洞察は、創造性を育みます。ペクレールは、ブランドの独自性を保ちつつ、変化する社会の価値観に対応する方法を考えます。
毎年、ペクレールはさまざまな分野の専門家を結集して未来予測の会議を開催し、それを 詳細に文書化しています。これは私たちにとって未来のバイブルとなるものです。そして、インタラクティブなワークショップを通して、この洞察をパートナー企業と共有します。また、ファッション、ビューティ、デザイン、消費財などの分野のブランドストラテジストや専門家が、これらのトレンドを各社の戦略的要素に変換するサポートをしています。
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