ペクレールは毎年、未来学や社会学、記号学、戦略などのあらゆる分野の専門家を集め、世界の進化の兆候を特定します。願望や信念、自己及び他者との関係におけるこの微かな揺らぎは、短期~中期的に消費者の景観を変えるものです。この調査は信念、自然、快楽志向、アイデンティティ、科学、時空間という6つの軸を中心に展開され、消費者インテリジェンスとトレンド予測(美意識と製品用途)の両分野に生かされています。ここでは、最新の未来予測の会議から、時間との新しい関係性についての分析を紹介します。時間という現実と向き合うことが、ますます複雑化する未来への展望を見出すきっかけとなるかもしれません。

未来(想像の時間)から、リアルタイム(現実の時間)へ

世界はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と形容され、将来の見通しが立たなくなり、社会において公私のバランスを公正に保つことが難しくなっています。しかしながら私たちの奥深くに根差す生存本能は、望ましい社会の形を想像させ、ひとりひとりがさまざまな解決策に目を向け始めています。そして、不安定ながらも新たな再生が始まっています。

デジタル技術によって新しい社会への夢が膨らみ続けていますが、それはパラレルリアリティ(平行現実)よりもむしろ、現実世界に役立てられています。人々は、不確実性を乗り越えるために、テクノロジーを頼りにしているのです。進歩によって社会や人間の限界を押し広げ、柔軟で創造的な方法で危機を乗り越え、よりしなやかに世界を見つめ始めています。

絶え間なく変わり続ける不安定さに翻弄されながら、人々は無限に続く時間の流れについて問い直し、特にその速さに対する見方を変えています。そして将来の予測が不可能である ことから、現在との強迫的な関係が浮かび上がります。つまり、リアルタイム(現実の時間)が、未来(想像の時間)よりも優先されるのです。

マクロトレンド 1:リアルタイム社会

未来を予測することも、良かった時代に戻ることもできない人々は、長く静止した現在に閉じ込められたように感じています。そして、この拘束感から解放されるために、時間を異なる形で体験しようとしています。このラストミニット社会(深い関わりよりも、即時性とスピード重視)において、その瞬間を最大限に活用するのです。一瞬一瞬を永遠と同じように重視し、退屈からも時間の経過からも逃れて、常に緊迫した状況で生き(キートレンド① 瞬発的な生活)、「今、この場所」(キートレンド② 永遠の瞬間)をコントロールしようとしているのです。

アンリ・サラによるインスタレーション「タイム・ノー・ロンガー(もはや時間はない)」
2023年、ブルス・ド・コメルスで開催された展覧会「永遠の一瞬」 より

シャルル・ボードレールの言葉「永遠の地獄がどれほどの意味を持つだろうか、たとえ一瞬でも永遠の喜びを感じたことのある者にとっては」にインスピレーションを得たアンリ・サラは、現在という時間の概念に挑戦する没入型体験を提供しました。世界の鼓動を伝える音と浮遊感のある映像が感覚を曖昧にし、新たな感覚体験へと導きます。

キートレンド① 瞬発的な生活

現実から逃避し、予測不可能なことを受け入れながら、猛スピードで人生を楽しむ人々がいます。記録的な旅行消費(世界での年間成長率4.41%)から、衝動的なファストファッションの購入(Sheinは10代が排出するCO2の12%を占める)、動画コンテンツの消費財化など、経済のサービス化と共にラストミニット社会が拡大しています。この自由奔放なライフスタイルは、刹那的なものや、瞬間的に幸福感を高める行動を肯定的に受け入れます。

AIがユーザーとチャットしてマッチする異性を選んでくれるマッチングアプリ「Snack」
カナダの企業 Meet Muse Media Inc., 2023年

若い世代は、長期的な視点で見ることをやめ、人とのつながりを最適化するテクノロジーツールを利用しています。「Snack」という名前からもわかるように、この出会い系アプリは、ユーザーが自分の魅力を伝えるために発信する情報を「消費可能な」コンテンツとして捉えているようです。36歳以下に向けて作られたSnackは、TikTokのような動画フォーマットとユーザーとチャットするAIを搭載し、常にユーザーからの反応を引き出します。「時間を無駄にしたくない」世代のニーズに応え、このアプリは人間関係をゲーミフィケーション化しています。

ラグジュアリーなジャックムスのポップアップ。フランスのギャラリーラファイエット、2023年

刹那的なものは、新しさで人々を魅了します。例えば、爆発的に増えているのがライブコマース(20~30%のコンバージョン率とロイヤリティの拡大)とポップアップ。ジャックムスは、アーティスティックな演出による没入型のポップアップを複数展開し、インパクトのあるショッピング体験を提供しています。パリの百貨店ギャラリーラファイエットのポップアップでは、ブランドの美意識に没頭できる巨大なディスプレイが配置されました。このように体験をゲーム化することで、消費者が求める驚きをもたらしています。

キートレンド② 永遠の瞬間

将来の予測が難しくなる中で、人々は一部の時間を凍結させようと試みています。認識したとたんに過ぎ去っていく現在の瞬間の儚さは、私たちの悩みの種でもあります。個人的なアーカイブは「今、この場所」を永遠に留め、証言し、未来に向けて輝きを放ち続けます。そして新しいテクノロジーが、この永遠性の探求を支え、私たちに不老不死の夢を見させるのです。

韓国のDeepBrain AIのプロジェクト「Re;memory」

逃れることのできない死は、時間の流れをコントロールし、死を回避したいと願う人々にとって、最大の不安要素のひとつです。そして、この永遠への願望に応える新しいテクノロジーが登場しています。DeepBrain AIはもともとアバターを作るために設立された企業で、故人との対話を可能にするAIを開発しました。生前に行われるインタビューを通じて自然な言葉遣いをAIに学習させることにより、約30分間のリアルな交流を可能にします。

永遠のアーカイブ。トム・フォード 23-24年秋冬コレクション「トム・フォード・アーカイブ」

未来から過去にオマージュを捧げる「アーカイブ」のアイディアは、方向を見失った社会にひらめきを与えます。アメリカ人デザイナー、トム・フォードは最新コレクションで、映画監督であり友人でもあるスティーヴン・クラインとコラボレートし、彼の象徴的なルックを再編集したタイムカプセルのような映像を製作しました。過ぎた時間を箱詰めにしたように、ファッションが画面上を流れていく様子は、時間のコントロールを可能にしたかのようです。

このマクロトレンドの活用法

リテール

常に新しいブランドのコードに没頭できる、期間限定の体験的な売り場づくり。

コミュニケーション

気軽に楽しめるブランドコンテンツを提供する。エンターテインメント性と物語性、没入感があり、素早く消費できるコンテンツ。

製品

特定の時期に結びつけて、ブランドを象徴する商品の復刻版をリリースする。

未来の展望:誰のために、何のために、そしてどのように。

未来の洞察は、創造性を育みます。ペクレールは、ブランドの独自性を保ちつつ、変化する社会の価値観に対応する方法を考えます。

毎年、ペクレールはさまざまな分野の専門家を結集して未来予測の会議を開催し、それを詳細に文書化しています。これは私たちにとって未来のバイブルとなるものです。そして、インタラクティブなワークショップを通して、この洞察をパートナー企業と共有します。また、ファッション、ビューティ、デザイン、消費財などの分野のブランドストラテジストや専門家が、これらのトレンドを各社の戦略的要素に変換するサポートをしています。

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