Expression Cosmétique March / April 2021 – N°68
さらにナチュラルな処方、環境に配慮したパッケージ…。
成熟したシャンプー市場において、コロナ危機が堅実な消費者の期待をさらに高めている。
シャンプーは拡大のチャンスのある市場なのだろうか? 創造力を発揮できれば、その可能性はある。カンター社(Kantar)の開発マネージャー、アナイス・デュピュイは「シャンプーは、消費者の約80%が購入しており、衛生・美容市場の中でも比重の大きいセグメントのひとつです。長期的に見れば、僅かながら成長しています」と説明する。すべての流通チャネルを合わせた2020年第3四半期の売上高(前年同期比)は、7億1,400万ユーロに達し、2018年第3四半期の7億ユーロと比較しても遜色ない。そしてその大部分は、量販店の売上に集中している(カンター社によると市場の83.7%)。残りはさまざまなチャネルに分かれており、2番目に重要なのは薬局・ドラッグストア(4.3%)である。ヘアサロンは、前年の0.8%に対して0.6%と最も小さいチャネルで、特に感染拡大の影響を受けて、市場全体がやや縮小した。一方、セレクトショップにおいては、「今年、シャンプーの売上は安定しており、2020年1月から11月までの売上高は350万ユーロで、これ自体は良い業績といえるでしょう」と、NPDグループのエグゼクティブ・ディレクター、マチルド・ライオンは指摘する。長期的に見ると、シャンプーの種類はそれぞれ異なる進化を遂げ、これはすべての流通チャネルで観察されている。特に、一般的なシャンプーの種類が増えている。IRI社によると、2020年1月から11月までのマスマーケットでの「ファミリー向け」製品の売上高は4.6%増となり、若干のプラス傾向が見られた。一方、同期間における男性用シャンプーの売上は6.4%減、子ども用シャンプーは1.1%減という、減少傾向にあった。同様に、薬局・ドラッグストアにおいても、2020年には「普通の髪」と「すべての髪」が成長カテゴリーであったことが、Gers Data社の調査でわかった。またどこの国でも、新しいカテゴリーである固形シャンプーが、順調な滑り出しを見せている。例えばマスマーケットでは、2020年に490.6%成長し、250万ユーロの売上高を記録した(Iri)。薬局では、「固形製品やオーガニック製品の人気が高まっている」と、Gers Data社のサブジェネラルマネジャーであるデヴィッド・シアは指摘する。これらの動きは、エコパッケージや自然派(オーガニックを含む)の開発により、シャンプー市場全体に押し寄せている波の一部であり、今日の量販店において「この分野の主要な成長要因となっている」とIRIのキーアカウントマネージャーであるレオ・ヤヌスは分析する。IRIによると、シャンプー市場の38%が自然派志向であるという。
合理的な消費者
自然のものへの欲求、地球への配慮、節制と節約など、消費者の願望は多岐にわたる。それらは、社会や消費者の一般的な行動の結果であり、髪に関するトレンドとなっている。そしてこれらはすべて、合理的な購買者の態度そのものである。これらの特徴は、危機によってさらに強まったと、専門家は指摘する。カンター社によると、2018年と2020年において、それぞれ同程度の予算(17.6ユーロ)で、ほぼ同量のシャンプー(5.7本)が購入されたという。ロレアル・コンシューマー・プロダクツのヘアカテゴリーマネージャー、アレクサンドラ・ボルテンは、「自然のものが求められていると言っても、消費者が一番に求めるのは、シャンプーの効果であり、目に見える結果をもたらすことです」と語る。しかしながら、「髪に対する意識は変わりつつあります」と、ペクレール・パリのビューティーディレクター、ルシール・ゴーティエ=ブラウドは指摘する。「人々は、自分の髪が自然で、つやがあり、健康的であることを望んでいます。つまり、元々の髪質に逆らうことなく、髪を美しくしたいのです。これは、縮れやカールも含めて、本来の自分を受け入れる『ありのままの美しさ』のトレンドの一部なのです」。そしてこれは、自然体であることや自然と人間を尊重する意識の高まりと密接に関係しており、衛生・美容分野全体に広がっている傾向でもある。ルシール・ゴーティエ=ブラウドがこれを「中心的トレンド」と主張するように、成分への関心の高まりから、環境に配慮したパッケージ、さらにはブランドの社会的責任に至るまで、一連の基準に呼応している。特に、「シャンプーの安全性に関する要求が強まっています。例えば、許容範囲内であること、反応を起こさないこと、消費者が疑問に思う成分が含まれていないことなどです」と、クロラーヌ(Klorane)のマーケティングディレクター、リサ・カーンは語る。このような要求に加えて、消費者の消費パターンがより慎重になる傾向が見られ、売り上げの鈍化にもつながっている。特に、衛生用品とみなされるシャンプーへの影響は強い。「複数の商品を購入しなくなりました。例えば、男性用と女性用のシャンプーをそれぞれ別に購入するのではなく、家族全員が同じ製品を選ぶようになったのです。このトレンドは、日常的に購入する商品のドライブスルー式購買のブームと一致します」とレオ・ヤヌスは説明する。パッケージに関しては、「エコロジー的な動機に加えて、経済的・実用的な面を求める消費者もいます。250mlの容器を頻繁に買い替えたり、たくさんのプラスチック容器を持ち帰ることを避けたいのです」と、5リットル容器のシャンプーを販売するオーガニックブランド、コスリス(Coslys)を所有するN&Sグループのコミュニケーションマネージャー、セリーヌ・ウルボーは説明する(Expression Cosmétique N°67, p.8参照)。
エシカルな提案とミレニアルズの存在感
消費者の期待に応え、新しいシャンプーが続々と発売され、既存の製品もリニューアルされている。これらの製品はすべて、環境に配慮したパッケージで自然派であることが強調されている。すべての流通経路、そして髪の専門家、衛生や美容のゼネラリスト、大規模なグループから小規模な企業まで、ありとあらゆるタイプのブランドがこれに関わっている。「実際、この現象は、シャンプーが中心のヘアケア製品全体に関係しています」と、ユージーン・ペルマ社(Eugène Perma)のマーケティング/プロフェッショナル製品開発マネージャーであるモード・ユイグは強調する。「シャンプーは欠かせない習慣です。ヘアケア製品のシリーズには、必ずシャンプーが含まれています」。欧州では、2015年の60%に対し、2020年に発売されたヘアケア製品の70%が自然派を謳っている。2020年のミンテル社のレポート「ヘアケアにおけるイノベーションの1年(One year of innovation in hair care)」によると、この傾向は、エコ容器(13% 対 26%)においてさらに顕著である。また、髪の専門性を謳うブランドも、これに追随する。「地球にも健康にも良い製品を求める消費者の期待に応えるためにも、自然派であることが必要です。ですから、私たちのようなヘアケア専門のブランドも、そのDNAの中心である性能や効果に妥協することなく、自然のものを最大限に取り入れた処方に取り組んでいます」とモード・ユイグは説明する。ヘアサロンで製品を販売する同ブランドは、2019年にエコを打ち出した「Collections nature」シリーズで、天然成分90%のシャンプーを提供している。同じくヘンケルも、サロン向けのヴィーガンブランド「Authentic Beauty Concept」を立ち上げた。ドラッグストア向けの製品では、クロラーヌのシャンプーが今年リニューアルされ、天然成分90%配合(以前より約30%増)となった。また、量販店では「ティモテ」、「ル・プティ・マルセイユ」、「ル・プティ・オリヴィエ」などのブランドで天然成分配合の製品が発売され、一種のブームを巻き起こしている。中でも、マーケットリーダーであるロレアルグループのアプローチに着目すると、市場がどのように進化しているのかがわかる。Garnier Ultra Douxのシャンプーには、エコ容器とオーガニック製品があり、ロレアル・パリ エルセーヴのシャンプーのパッケージは再生素材100%で作られ、再利用可能である。さらに、伝統的なブランドであるDopやGarnier Ultra Douxは、NAEやヘンケルに続き、固形シャンプーを発売しており、新しいヘアケアブランドであるNature Boxは(11種類のシャンプーを発売するという)イノベーションを起こした。「私たちはユーモアのある、一風変わった多様なアプローチによって、『固形ソープの使用』を広げたいと考えています。しかし、まだ準備ができていない人のために、液体ソープも提供します」とヘンケルのヘアプロダクトマネージャー、シリル・レオナールは語る。これは新しいトレンドの到来なのか? このきわめて賢明な市場において、ヘンケルの「Nature Box」と、ロレアルの「Fructis Hair Food」は、共にミレニアル世代をターゲットとし、喜びと地球環境への配慮を両立させることを目的としている。
皮脂ケアは下火に
「ヘアケアの方法は、ロックダウンの影響をあまり受けませんでした。一時盛り上がりを見せていた、皮脂ケアの話題はほとんど聞かなくなりました。この現象は限定的なもので、消費の数字には反映されていません。マスクを着けることになり、髪が美容における重要な位置を占めているのです。」
ロレアル・グランド・パブリック / 消費財
ヘアカテゴリーマネージャー
アレクサンドラ・ボルテン
今後は、水の使用量を抑えることが必須に?
「環境問題に大きく関わるウォーターレスの処方は、今後の強いトレンドとなるでしょう」と、リサ・カーンは言う。現在のところ、水の消費量が少ないことは、ブランドのアピールの中心ではない(ミンテル社)。しかしながら、ますます不足する資源を大量に消費するシャンプーにおいて、このテーマは、UVケア製品にとって海洋保護が重要であるように、影響力を強める可能性がある。このトレンドに合わせた製品はすでにいくつかある。例えば、無水の固形タイプは急速に発展しているニッチなカテゴリーであるが、パウダータイプも登場し始めている。カンター社によると、2018年にはフランス人一人当たり1.9個、2020年には2個のドライシャンプーが購入されている。
インターネットでの販売が好調
ロックダウン下で休業中のヘアサロンやショップは、さまざまなブランドのシャンプーのオンライン販売を伸ばしている。これは、すでに強いトレンドであることを裏付ける。カンター社によると、2018年と2020年の第3四半期の比較で、インターネット販売のシェアは8.9%から11.4%に上昇した。その理由は、基本的な家族向けシャンプーを購入するためのドライブスルー式購買の成長(Iri社によると2020年に27%増)にある。反対に、ヨギ(Yogi)やモン・シャンポン(Mon Shampoing)といった特殊な製品を提供する若いブランドは、ウェブ上での販売に顧客とのつながりを構築する可能性を見出している。またユージーン・ペルマなどは、サロン販売を補完するために、デジタルコミュニケーション(Facebook、Instagramなど)を活用してオンラインでの存在感を強めている。
喜びをもたらす、パワフルな最高級製品
喜び、パーソナライゼーション、感覚的な体験、特殊なヘアケア(アジア発のブームである頭皮ケアを含む)、新しいテクスチャーの探求など…。「ハイエンドブランドでは、製品の『持続可能性』が必須条件です。そして、新たな道が開拓されています」とルシール・ゴーティエ=ブラウドは分析する。例えば、ヨディ(Yodi)は、プレバイオティクスを含むシンプルな処方のパウダー状シャンプーを提案している。これは、頭皮のマイクロバイオーム(微生物叢)のバランスを強化することを目的としたもの。「このシャンプーは、トリートメントの役割を果たします。美容と健康は、密接に結びついているのです」と、ブランドの創設者であるエレーヌ・アザンコットは語る(2020年)。ギャリネ(Gallinée:鎮静効果のあるクレンジングクリーム)やダヴィネス(Davines:鎮静効果のあるシャンプー)の製品も、このトレンドに対応している。また、パーソナライゼーションを提案するブランドもある。ジャスト・パリ(Juste.Paris)では、オンライン診断の後、「オーダーメイド」のシャンプーを提供。モン・シャンポンでは、シャンプーベースに、エッセンシャルオイルを使った7種類の「ブースター」を好みに合わせて組み合わせられる。「香りは重要です。今やシャンプーは日常のもの。ですから、シャンプーを使うことを喜びや休息の時間に変えることが大事なのです」と、創業者のパトリシア・デブランは説明する。この市場においては、ウマイ(Umaï)、オダシテ(Odacité)、アニタ・グラント(Anita Grant)、キャロルズ・ドーター(Carol’s Daughter)などの新興ブランドが、レオノール・グレユ(Leonor Greyl)、ケラスターゼ(Kérastase)、クリストフ・ロビン(Christophe Robin)といった業界のリーダーに挑戦している。「3年ほど前から、この未開拓の分野で新しいブランドが登場しはじめました。この分野の製品はまだ限られていますが、消費者は高級ヘアケア製品に強い関心を示しています」とNPDグループのエグゼクティブ・ディレクター、マチルド・ライオンは言う。セレクトショップにおけるシャンプーの価格は、平均20ユーロである。