Fashion United, 2021年5月3日

トレンド予測はどのように行われるのですか?

トレンドを予測する過程は、考古学に似ています。しかしながら、考古学のように過去を明らかにするのではなく、未来というパズルのピースを集めるのです。私たちは尽きることのない好奇心と研ぎ澄まされた直感を原動力に、感情を揺さぶり、インスピレーションを与えてくれるサイン(兆候)を集めます。そして消費者の価値観の大きな変化を考慮しながら、慎重にビジョンを組み立て、それを実現します。これは、ペクレールの集合知を反映した、直感的なプロセスなのです。

トレンドを見極めたり、インスピレーションを得たりするために、いつも何を参考にしていますか?

ペクレールには、ファッション・リビング・ラボという仕組みがあります。デザイナーだけでなく、ペクレールのコミュニティメンバー全員が定期的に集まり、自由にインスピレーションを共有する場です。これを見れば、トレンドを特定する過程がいかに多様性に富んでいるかがわかります。アイディアは文化的な展覧会やソーシャルメディア、歴史からの参照、ヴィンテージの再発見、個人的な記憶などから生まれます。中でも特に興味深いのは、それぞれ個人が持つ独自の視点です。

最新のコレクションを見て、21-22年秋冬シーズンはどのブランドが躍進しそうですか?

ペクレールの中で評価が高いのは、コペルニ(Coperni)やアトライン(Atlein)、アリクス(Alyx)の切れのあるシャープなスタイル。これらのブランドは、動きやすさを実現しながら、自信に溢れるボディコンシャスなルックを生み出しています。

一方で、ベヴザ(Bevza)やケイト(Khaite)、アンブッシュ(Ambush)は、プロテクション効果の高い、柔らかくふっくらとしたシルエットを発表しています。パリ・ファッションウィークのオープニングを飾った、フランス国立モード研究所(IFM Paris)の若手デザイナーたちも、「抱きしめたくなるような柔らかさ」を中心的テーマに取り上げていました。

「迷ったら、とにかく着飾りなさい」、ヴィヴィアン・ウエストウッドのこの言葉には、遊び心や高揚感に任せる、というが思いが込められています。オットリンガー(Ottolinger)やコリーナ・ストラダ(Collina Strada)、ブルマリン(Blumarine)のコレクションからは、行く場所のない今の状況下でも、ドレスアップすることの楽しさと喜びが伝わってきます。

2021年のファッションとリテールで起きていることは?

快適性がすべて。しかしながら、すでに慣れ親しんでいるコロナ以前のアスレジャースタイルには、さらに強い美的表現の打ち出しが必要です。今明らかに、昼と夜、家とオフィス、さらには普段の日と特別な日など、生活の場面における服装の境界が失われています。そんな中ではワンピースとニットが、ベストなアイテムとなるでしょう。そしてデニムのトレンドも再燃しつつあります。

コロナ禍が続く中で、デジタルファッションはどのような役割を果たすと思いますか?

ソーシャルディスタンスの必要性が、これまで以上にデジタルの重要性を高めました。さらにロックダウンにより、バリューチェーン全体においてデジタルが最優先事項として位置づけられています。

こうした実利的な側面だけでなく、デジタルは消費者との距離を縮め、対話を育むための強力なツールでもあります。長期的には、デジタルチャネルでの販売の割合が増えることによって、販売拠点でありブランドを体現するリテールの役割が劇的に変化することは間違いありません。

コロナ禍は、ファッション業界におけるクリエイティブ面にどのような影響を与えていると思いますか?

創造性こそが、今ある課題を解決できるという認識が強まっています。また、ブランドの軸であるクリエイティブ・ディレクターの役割、つまり独自の美的表現を構築するキュレーターとしての役割を、業界が再認識するきっかけとなりました。そして多くのデザイナーが、自分のつくる服だけでなく業界自体に意味や目的をもたらすために、時代にそぐわない目まぐるしいリズムから抜け出す必要があることを表明しています。これはつまり、従来のサイクルにとらわれることなく、「本来の」シーズンに合わせた無駄のない提案をする、スローなテンポに戻すということです。また、消費者の価値観に共鳴する本物を追求することでもあります。

このようにスピードを落とし、適切な提案を行うと同時に、驚きや魅力を提供する取り組みが盛んになっています。「イケア x オフホワイト」や「ディオール x エアジョーダン」のようなブランド間コラボや、ルイ・ヴィトンとウルス・フィッシャー(Urt Fischer)のようなアーティストとのコラボレーションでも、こうした力の結集がエネルギーを生み、思いもよらないようなブランド表現を可能にしています。

ホームウェアやエコロジー以外に、21-22年秋冬シーズンに登場すると思われるマイクロトレンド(小規模あるいは短期的なトレンド)を2つ挙げてください。

ホームウェアとエコロジーをマイクロトレンドと呼ぶのは興味深いですね。私たちは、これら2つは正反対のものだと考えています。

ホームウェアとランジェリーは、今や私たちにとってベーシックです。着心地の良さや快適性という基本的な要素に加えて、プロテクションや感覚的要素、セルフケアといった、さらに深いニーズに応えるものとなっています。例えば、コルセットが楽しくレトロなデザインで復活しているように、おうち時間が中心の今のライフスタイルに、魅力やセンシュアリティをもたらしています。

持続可能性に関して言えば、社会的責任を果たすファッションが次の「ノーマル」になることは間違いありません。所有についての見直し、製品調達やブランドの行動の再考など、新しい価値観をもつ若い世代からの圧力によって、意識的なシステムが構築され、ファッション業界はより人間的なものに変わりつつあります。そしてブランドは、その使命や優先事項、長期的な目標を明確にしなければなりません。コロナ危機と消費者の価値観の変化により、ファッション業界はさらに「勝者がすべてを手に」し、売り上げだけでなく顧客の支持率においても「勝者と敗者」間の格差が拡大することが予想されます。これは市場のあらゆるセグメントに関係することです。例えば、インディテックスやH&Mのような大手ファストファッション企業は、原材料の調達や循環型社会の実現に向けて絶えず改善を行っていますし、ガニー(Ganni)やアトライン(Atlein)のようなデザイナーズブランドは、持続可能性を当然のことと考え、クロエ(Chloé)は新しいアーティスティックディレクター、ガブリエラ・ハーストの環境に対するビジョンを打ち出し、その野心を表明しています。

21-22年秋冬のファッションは、どこからインスピレーションを得ているのでしょうか?

では、ペクレールのトレンドブック「インスピレーション 2022-23年秋冬」からの引用で、このインタビューを締めくくりたいと思います。それは、「目的あっての創造性」です。

かつて創造性とは、選択の幅を広げ、斬新さを競い合う表現を生むことでした。しかし今、インスピレーションはより幅広い文化的対話からもたらされます。機能性と適応性は欠かせない基本的要素です。人と自然との関係は、謙虚さと自然の再生力を取り戻すために変わりつつあります。そして、創造的な心から生まれる特異性こそが、いま求められる伸びやかな表現と魅力をもたらすのです。

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