ダイバーシティとは、異なる・多様な・複数のものを意味する言葉です。

“フランス人の72%が広告で多様性を示すことは重要、あるいは非常に重要だと考えている。”

2022年2月、カンター社とグッドカンパニー社の調査より

また、インクルーシビティは社会的包摂のことであり、枠の外の人々を受け入れ、優遇し、擁護することを意味します。ブランドは今、この社会的課題に取り組む必要があります。

“フランス人の78%は、ブランドが近年、この課題に積極的に取り組んでいると考えている。特に肌の色や出自が異なる人々に対する表現が改善されつつある。”

2022年2月、カンター社とグッドカンパニー社の調査より

このような状況において、ファッションブランドは問題に向き合い、以下のように自問する必要があります。

・身体の多様な表現や個性にどう対応するのか?

・ジェンダーやサイズ展開が、既製服にどのような影響を与えるのか?

・ブランドは、どのような価値を提供することができるのか?

ジェンダーと身体の多様性に関する考察

まずは、ソーシャルネットワークから考察してみましょう。ソーシャルネットワークとインフルエンサーの影響により、ブランドは表現の問題を真摯に受け止め始めています。

この考察の要は、私たちのジェンダーに対する概念を見直すことです。ジェンダーの多様性によって、ファッションの美意識や既成の製品カテゴリーはどのように変わるのでしょうか。

ドナルド・グローヴァー ― アメリカ、インタビューマガジン、2022年
複数のアイデンティティ

ジェンダーは生物学的な性によって決定され、固定のものという考え方は、長い間、社会や世代間で議論の的となってきました。

各々がジェンダー意識を主張し始めると同時に、自認する以前に決定され、課される一連の規範から解放されたいという願望が強まっています。

理想化された“女”と“男”の基準という窮屈な言語から脱却し、あらゆる独自性と流動性を持った“女性たち”と“男性たち”、つまり多様なアイデンティティが存在する現実を前向きに受け止めようという動きが広がっています。

流動性の目覚め

現代のジェンダー・アイデンティティをめぐる戦いを妥結させる糸口となるのは、脱する権利、戻る権利、そして問う権利を認めることのように思えます。これらの正当な情報や伝達、教育を通して、全ての人々が他者を広く受け入れられるようになる可能性があります。“自己”を構成するものとその表現を他者に委ねたくない、という願望の高まりは、ジェンダーを固定的なあり方から引き離し、疑問を呈する余地があることを示しているのです。

ショービジネスにおけるジェンダーの流動性

ドラァグ・ムーブメントの一部であるジェンダーフルイド(流動的なジェンダー)は、新しい世代の人々の支持を受けて、より身近なものになりつつあります。

例えば、コメディアンのジャミーラ・ジャミルとのインタビューにおいて、ジェンダークイアでノンバイナリーであることを告白した歌手のサム・スミスは、2019年3月15日の時点でTikTokに550万人のフォロワーを擁しています。サム・スミスはこのインタビューの中で、「私は男でも女でもありません。中間のどこかに漂っているように思う」と語りました。

改名したクリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズのクリスや、俳優のティモシー・シャラメ、あるいはララ・エースといったアーティストも、このジェンダーフルイドのムーブメントの一端を担っています。

サム・スミス
クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ
ティモシー・シャラメ
より繊細になったメンズファッション

かつてはテーラードかカジュアルの2択だったメンズファッションは、 クチュールの創造的でセンシュアルな領域へと広がり始めています。

トルコ生まれのフランス人デザイナー、ブルク・アキオルによると、「服をセクシーにしたいわけではありません。着ていて心地良く感じることが大切なのです。服は、それぞれが選ぶジェンダーを表現するものです」。

今、レディースとメンズのファッションの間に相互作用が生まれています。男性服のスタイルとノウハウが、レディースの製品を強化しています。反対に、とても限られていたメンズのスタイルは、レディースの幅広い表現を取り入れ始めています。

ウェールズ・ボナー
ヴェトモン
ルドヴィック・ド・サン・セルナン

ペクレールはシーズンを追うごとに、メンズとレディースの服の境界が曖昧になりつつあることを確信しています。メンズファッション・トレンドブックの「オール・ジェンダー・カプセル」のページでは、全てのジェンダーに向けた美的表現や製品、素材、スタイリングを紹介しています。

身体を重視する
無意識下の親密さ

社会は今、極端な慎み深さと過剰な身体の露出の間で揺れ動いています。私的なものと公的なものの境界を見出そうともがき、その結果、これまでの節度のあり方を壊そうとする機運が高まっています。こうしてプライベートの領域は、一人ひとりの自発的な意思によって公になり、これまで隠されていた親密なものが外的なものに変わっています。

フェミニストの身体

身体をあらわにすることを禁じる社会の命令を拒み、セクシュアリティを子供を産むこと以外にも広げようとする女性たちは、性にまつわる固定観念を壊し、変化し続ける自分の身体について、より深く理解したいと考えています。

そして異性カップルの関係にも、平等性が求められています。

女性らしさは、それぞれの認識によっていかようにも変わり得るもの。そして、欲望は時間や時代によって変化するものであり、欲望と悦びが、女性のエンパワーメントや独自性、解放を導く足がかりとなるでしょう。

厳しい現実

しかし、身体の解放や女性のエンパワーメントにまつわる現実は、未だ厳しい状況です。

身体の多様性は、ファッションがこれから取り組むべき重要な課題の一つですが、ブランドは未だ慎重で、新しいスタンダードとなるべき取り組みは例外視されています。

例えば、サイズ40までの服を見つけるのは容易ですが、サイズ44についてはニーズがあるにも関わらず、明らかに提供が不足しています。

サイズ44を着る女性は、他のサイズに比べて服の選択肢が3分の1しかありません。さらにサイズ46を着る女性は15分の1、サイズ48を着る女性は71分の1の選択肢しかないのです。

“フランスの女性の0.7%にあたるサイズ34は、約14%の選択肢を与えられています。一方、9%の女性が着用するサイズ46は、わずか0.6%の選択肢しかありません。”

フランス繊維・衣料研究所(IFTH)

ファッションコンサルタントのフランチェスカ・バーンズは、ここ2年間、ラグジュアリーブランドのサンプルセールにおいて、小さいサイズが値下げして販売されていることを暴露しています(上中央のセリーヌの写真)。

先の長い道のり

“2022年秋冬ファッション・ウィークに登場した、プラスサイズの女性モデルの割合:2.34%”

ファッションスポット、2022年
ガニー
エメ・レオン・ドレ
ジャックムス

ブランドはキャットウォークで多様性を打ち出すようになったにも関わらず、 広告では包括性という点において弱気です。以前は大々的なキャンペーンが打ち出されていましたが、今ではリアルでアクセスしやすい日常的なファッションに軸足が置かれています。

ファッションブランドは、多様性と包括性がすでに確立されたルームウェア/ランジェリー/スポーツブランドの後を追いかけています。パロマ・エルセッサー、プレシャス・リー、アシュリー・グラハム、ジル・コートリーヴといった“プラスサイズ”モデルがキャットウォークや雑誌の表紙を飾っているのは、その曲線美に加えて、いわゆる“伝統的な”美しさを備えているからです。一方で、少数派であることから、マーケティングにおける付加価値も提示します。彼らは、ビッグメゾンの「包括性」を保証する存在なのです。

ルームウェアの特例

スポーツウェアとランジェリーブランドは、表現が与える影響を理解し、数年前から、その提案とコミュニケーションを適合させることによって、急進的な転換に取り組んできました。

ニットウェアの適応性

セクシーなスタイル、シックなスタイル、スポーツウェア、カジュアルなど、ニットウェアは幅広いサイズ展開と多様性を実現でき、“プラスサイズ”ファッションやマタニティウェアを創造性豊かに広げます。例えば、エステル・マナスのエッジの効いた服、あるいは様々な体型に適応するワンサイズのニットを展開するマルニなど。

1.ブランドに共鳴する消費者価値の進化を把握する

社会文化トレンドの調査から導入に至るまで、ブランドに共鳴する消費者価値の進化を見極め、新たな消費者志向にどう対応するか、ブランドの戦略ロードマップを描くことが重要です。

ペクレールは、消費者インサイトと創造性を軸に、社会文化を観測しています。世界の変化を告げるシグナルを見出し、次のようなレファレンスを複合的に分析します。

・文化、ファッション、アート

・社会学、哲学

・ニュース、メディアとソーシャルネットワーク、経済、統計

2.ターゲットを知り、可視化する

新しいターゲットを把握し、獲得するには? 消費者の価値観やライフスタイル、美的嗜好に応えるイノベーションとは?

ペクレールのアーキスタイル®は、消費者の欲求を理解し、それに応える製品やサービス、店舗体験を可視化します。

3.ブランドの姿勢を明確にする

多様性と包括性を実現するブランドの姿勢とビジョンとは?

ブランドの例:

ベルティーユ・イサボー(Bertille Isabeau): 活動家、フェミニスト、ボディポジティブ、LGBTQ+にコミットしたランジェリーブランド。

パンゲイア(PANGAIA):地球を大切にするブランド。ユニバーサルでジェンダーレスなすべての人のためのイノベーション。

ラコステ(LACOSTE):クラシックとヘリテージを基に、世代を超える多文化なブランド。

4.製品の提案と戦略の再考

・従来のようなコレクションの区分をやめる:メイク・マイ・レモネード(MAKE MY LEMONADE)

・微妙に異なる身体に寄り添う:グッド・アメリカン(GOOD AMERICAN)、ユニバーサルスタンダード(UNIVERSAL STANDARD)

・多くの人にフィットするワンサイズの提案:ダブレット(DOUBLET)

・グローバルな提案において、ジェンダーレスやジェンダーフルイドについて考える。

・インティメート(ランジェリー等)のカテゴリーに、横断的アイデンティティの考え方を含める:ムーズ(MOODZ)

ペクレールでは、これらの課題に向けた戦略と運用のサポートを行っています。

詳細につきましては、グノクル株式会社までお問い合わせください。

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