ELLE誌に、ペクレール・パリのCEO アン・エティエンヌ=ルブール(Anne Etienne Reboul)のインタビュー記事が掲載されました。50年以上ににわたり、ファッションやビューティ、インテリア、デザインのトレンド予測を行ってきた独自の方法と視点について語っています。

トレンド予測の秘訣とは

一過性の流行?それとも広がり、根付くか?

トレンド予測会社は、多様に進化する消費者の動向をどのように読み解き、予測しているのか。その秘訣とは?業界をリードするペクレール・パリのオフィスの扉をくぐっても、占いの水晶玉は見当たらない。

この稀有な企業は、私たちの服や住まい、願望や衝動の方向性を3~4年先まで予測し、時に決定付ける影響力を持つ。未来予測の極意とは一体どのようなものなのか、その深層に迫ってみよう。


陽光に照らされた、ガラス張りのオフィス。それぞれのフロアでは、専門家たちが仕事に集中している:スクリーンにくぎ付けの目、ソーシャルメディアや世界中の企業のウェブサイトなど様々な情報源から集められ、重ねられ、入れ替えられる画像の数々。ペクレール・パリのCEO アン・エティエンヌ=ルブール(Anne Etienne Reboul)は、わずかに南仏のアクセントのある話し方で、この仕事が好きな理由を語る。 「私は常に、文化や芸術的な創造に魅了されてきました。トレンドは巡るものですが、2巡目からはまったく同じではなく、その時代に根ざし、文脈によってニュアンスを変えるのです」。

この51歳のグローバル・マネジャーは、女性が90%を占める従業員全体を統括している。経営陣は全員が女性であり、未来予測アナリストと共に新しい消費者動向を探るスタイリストやデザイナー、マーケティングスタッフも7割が女性だそうだ。なぜ、スタッフのほとんどが女性なのか。

「それは私にも説明できないんです!時代は変わったとはいえ、レストランのシェフやファッションデザイナーは未だ男性が大多数です。しかし、消費者の価値観や美意識のトレンド予測となると、女性が圧倒的に多いのです。また、デザインや表現を学ぶ女性もますます増えています。女性は、消費者の選択に強い影響力を及ぼしているのです。現実主義で地に足の着いた考え方があるからでしょう」。

アイウェアからトレンド分析へ

生まれ故郷のモンペリエでビジネスの学位を取得し、マーケティングの仕事に就いたアン。「高級アイウェアの仕事で、それが製品に関わる初めての経験でした」。カルティエやモンブラン、ダンヒルといったフランスのアイウェアメーカーと仕事をしたことが、彼女の業界に対するビジョンに磨きをかけた。彼女は視覚的な人間だと自負する。 「職人がスケッチに生命を吹き込む様子を見てきました。その細部へのこだわり、仕上げの丁寧さ、素材の扱い方を観察することで、私はプロとして成長していきました。メイド・イン・フランスの概念や、ブランド・アイデンティティの哲学を理解し、ラグジュアリー業界の伝統を会得したのです」。

7年後、彼女は小さなトレンドコンサルタント会社ユニヴェルスモードに就職し、ビジネスコンサルタントとして2年間働いた。その後、ペクレールのアカウント・マネージャーとなり、当初はヨーロッパの顧客を担当。やがてアジア市場の開拓に力を入れることになる。

直感から戦略へ

2018年にCEOに就任して以来、アンは組織内の壁を壊そうと努めてきた。そして新人から熟練したスタッフまで、多彩なスキルと経歴を持つスタッフが混在する学際的なチームを編成している。「部署で分けずに、若手に責任を持たせ、人を信頼します。学ぶこと、そしてお互いを補完し合うことが大切です。見る目を養えば、驚くようなことは何もありません。形を変えて『斬新』と言われるものの中には、全く新しくないものや商業的に成功しないものがたくさんあることに気付くでしょう。さまざまな視点と向き合うことで、物事を相対的に分析し、見ることができる。私たちの仕事は、表層的な価値に囚われずに、熟考し、分解することなのです」。

1970年ドミニク・ペクレールという一人の女性によって設立されたこのフランス企業は、「スタイルを身近なものにする」ことを目標に、企業やブランドの商品開発を支援してきた。80年代にペクレールは、「来春のカラートレンドは?」「来年のインテリアはどうなるのか」といった顧客の疑問に答えるため、トレンドブックを制作し始める。そして2003年には、世界最大の広告代理店グループであるWWPの傘下に入った。世界的な企業であるペクレールの最高幹部として、アンは100人ほどの従業員を管理している。フランスに本社を置き、従業員の3分の1はロサンゼルスやミュンヘン、ニューヨーク、上海といった海外に勤務する。また、韓国や日本、オーストラリア、イタリア、スペイン、オランダ、デンマーク、イギリスといった、ファッションやスタイルが重要視される国々のエージェントとも連携している。ペクレールは、ファッション(メンズ、レディス、キッズ)、ビューティ、ライフスタイル、インテリアを主な事業分野としている。

すべてのトレンドは、そのニュアンスや重なり合う影響など、いくつかの層でできている。時代の精神が、ファッションのクリエイティブな表現へと統合され、そのシーズンを象徴し、やがてその時代をも定義することになる。

どうやってトレンドを予測するのか?

何が消費者の心を揺さぶり、魅了するか、それをどう表現するかは、茶葉占いのように(欧米では今、抹茶がトレンドであるけれども)簡単なことではない。アンとそのチームの仕事は、グローバルな進化や消費者行動の変化に常にアンテナを張り続けることだ。そのトレンドは新しいか。どのように受け止められ、どのように広がっているのか。ペクレールはCEOのビジョンに沿って、これらを実行している。「ペクレールのコンサルティングは、クリエイティブと未来を先駆ける戦略に基づいています。私たちの役割は、特定の市場や業界、ブランド、ターゲットに共鳴するトレンドを明確に示すことです。それは、真の欲求を引き出し、意味のある消費者価値をもたらします。そして、こうしたスキルを総合的に把握している企業は優位に立つことができるのです。なぜこのパンツが売れたのか?タックの位置やウエストの高さ、素材の種類、そして他のアイテムとの組み合わせなど、細部にまでこだわり、時代に合った着こなしを実現することです。私たちの方法は、常に現実に根ざしています」。このビジネスにおいて、理論だけでは通用しない。ペクレールのファッションやビューティ、ライフスタイルの各部門は、長く使える製品の実用面にも深い理解がある。

色、丈の長さ、そして欲望の原理。トレンドを「予測」することは、未来を描く技術であり、直感や根気強さも必要とされる。

理解し、説明する

「社会文化を観察・分析することで、主な市場の動きやマクロトレンドを読み解き、ブランドが直面している課題を明らかにすることができます」。そして現在、および近い将来に注目すべき領域は、アイデンティティと一体感、特異性であるという。

快楽と喜び、環境意識、自然や科学、デジタルやテクノロジーといった要素が、消費者の行動や世界観に影響を与えている。「私たちは50年以上にわたり、社会や文化、美意識のトレンドを動かす、微かなサイン(兆し)を観察し、収集し、分析してきました」。

ペクレールは、トレンドブックとコンサルティングの2つのサービスを提供している。トレンドブックは、総合的なスタイルの変化を描き、新しい視点を提供し、また、特定のシーズンに向けたファッションやアクセサリー、ビューティなどの製品に焦点を当てる。リーバイスやH&M、ユニリーバ、ファーウェイといった様々な企業が購入しており、そのビジネスの40%を占めている。そして、残りの60%はコンサルティングである。

観察し、理解し、予測する…その繰り返し

ペクレールは毎シーズン、世界中の有名メゾンや新進デザイナーが開催する500ものファッションショーを分析している。「テクノロジーやインテリア、美容などの約50の見本市、クリエイティブ・イノベーションに関する専門的なシンポジウムや会議にも出席しています。また毎年、何百ものアートや文化、建築の展覧会を訪れ、世界の主要なデザインウィークにも参加しています」。嗜好や習慣の変化を観察するだけで終わりではない。人生を変えるような出来事をアートがどのように表現しているのかを追跡し、ドラマシリーズを見続け(注:仕事のため)、新しい文学作品に目を通し、ほとんどの人が気付かないような小さなサイン、つまりトレンドの「芽」を察知し、吸収する。

「時間性を考慮します。トレンドは常に文脈の中に存在しています。高級な製品に当てはまることが、必ずしもマスマーケットに適用できるとは限りません。中国で売れていても、ヨーロッパでヒットするとは限らない。一人の顧客が、食料品店で買い物をする時と、小さなデザイナーショップで買い物をする時では、行動が違ってきます。壁を取り払い、既成概念にとらわれない発想で、デザイナーの視点を高め、新たな地平を切り開くサポートをするのが、私たちの仕事です。例えば、食とファッションには関係があります。和菓子の美しさやテクスチャー、感覚的な魅力を例にとってみましょう。餅菓子の丸い形や薄桃色の透明感は、スキンクリームを『美味しそう』に見せることができます。同様に、プロダクトデザインはファッションアクセサリーに、建築は靴に、影響を与えられるのです。メッシュ素材はサンダルにも、ハンドバッグにも、カーテンにも使用することができます。私たちが出版する「エンバイロメント&デザイン」トレンドブックは、素材に関する情報を探す靴メーカーや、店舗装飾のアイディアを求めるアパレルブランドにも購読されています。全く異なる領域がつながり、その相互作用からトレンドが生まれる。私たちの仕事は、新しい組み合わせや革新的な環境を想像することなのです」。

多様に広がるフレームワーク

オープンプランのオフィス内を歩きながら、アンはさらに説明する。「人々がどのように暮らし、どのように休日を過ごし、お風呂で何を読むか(そしてどのバスオイルを入れるのか)を予測し、分析するのです。そして私たちが毎年収集する10万枚の画像を張り巡らせて、万華鏡のような世界を描き出します」。

これが世の中の進化を先取りし、全体像を掴む技術である。ではなぜ、ベルギーにはこのような組織が存在しないのか?「国際的な影響力を持つ大都市であることが影響しているのかもしれませんね。パリには、大企業とのつながりがある。また、いつでもどこでも、数えきれないほどの実験的なアイディアに触れることができる。それに、ブランドの数が圧倒的に多いですから」。ペクレールは、トレンドを分析するだけでなく、それを消化し、代謝させている。「私は多様性を強く信じています。協力し合えば、自分たちだけでするよりも、もっと大きなものを作ることができます。」

「トレンドを見極める最高のレシピですか? それは歴史と文化、アートを調和させ、欲望と直感、インスピレーション、実用性、専門性、市場の知識を加え、国際的な視点でフィルターにかけること。それが、私たちの信念であり、スタンスである「ペクレールの視点」なのです。私たちは、手堅く売れるコンセプトを探しているわけではありません。むしろ、変化の兆しや検討すべき新しいアイディアを探しているのです。そして何よりも、自分の仕事が好きでなければなりません。ここは、分析や方法、創造性、優れた職人技術など、ほぼ無限のリソースを擁する「遊び場」のようなもの。結局のところ、人がすべての中心なのです」。つまりトレンドは、進化する世界を映し出しているのである。

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