美容業界はこれまでも、その基準を変える努力を怠りませんでした。しかしながら今、基準となるものが根本から変わり、大きな課題として立ちはだかっています。今、経験している健康と社会の危機は、私たちの行動をさらに要求の厳しいものにしています。そして美容・ウェルビーイング業界は、内面と外面のバランスを求める消費者との関係を再構築するために、新たな活動を始める必要があります。

フランス国立科学研究センター(CNRS)名誉研究部長で人類生物学者、健康と環境の関係や身体生物学・人類学・社会学の専門家であるジル・ボエッチュが、新たな美の基準についてのビジョンを語ってくれました。

©Anaïs Costet

自己と他者との関係において、この健康や社会の危機から私たちが学んだことは何でしょうか。それによって、私たちの行動はどのように変化するのでしょうか。

ジル・ボエッチュGB):自己と他者との関係において、コロナウィルスによる現在の危機には、いくつかの興味深い点があります。はじめに、バリアジェスチャー(感染を防ぐ行動)は以前から存在していたことを指摘しておきます。自分の身体と顔を守る、居住空間以外では相手に触れないなどのこれらは、距離的な近さや相手との関係性、親密さに関わることです。しかしながら、「見た目」の役割が変わっています。

ロックダウンが解除され、身体の再社会化が始まりましたが、衛生管理が進んだことにより、より細やかなケアと新たな習慣を基に、魅力を得ることが重要になっています。また身体については、感染を予防すると同時に美意識の高いボディケアが必要とされています。同時に自然を考慮に入れ、生態系を融合することの重要性も高まっています。

@onthewildside_spirit

いつまで続くかはわかりませんが、予防を考慮しなければならない状況が続くでしょう。この新しい優先事項が生まれたことによって、ケアや化粧品のニーズにどのような変化が起きていますか?

GB : ケアや美意識に対する新しい考え方は、特に美容ケアにおける消費パターンに影響を与えています。消費者は、美と健康をより理性的で包括的に捉え、毎日の習慣や表現を再考し始めています。

そして化粧品に求められているのは、アイデンティティを持ち、化学的ではなく生物学的であること。環境に配慮し、原産地とトレーサビリティを明確にすること。生態系のバランスを尊重すること。さらには、調達から製造、消費、回収と循環までの各拠点の距離の短縮化を保証しなければなりません。

具体的にどのようなケアや方法、製品、そして美容へのアプローチが求められると思いますか?

GB :より純粋で完結した、シンプルなケアの方法が模索されています。そこで求められるのは、よりパーソナルなスキンケア、環境がもたらす刺激からの保護、水の使用を抑えたよりナチュラルな製品です。

そして例えば、オイルを使ったセルフマッサージのように、時間をかけて自分自身を慈しむケアの方法。効果そのものよりも、自分の感情や感覚と向き合う時間が重視されます。

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すでにいくつかのブランドは、この領域の研究に投資し始めています。そして近い将来、地元で生産される原料を調達する手段を見出し、化粧品のアイデンティティを保証することが必要になるでしょう。これはつまり、ローズウォーターやゼラニウム、タイム、ローズマリーなど、身近な植物が持つ化粧品としてのメリットについて、優れた知識を持ち、ローカルなエコ化粧品の価値を高めることでもあります。

これによって美意識が地域化・分断化し、グローバルな規模での身体的美意識の交流が妨げられることはありません。反対に、身体的・文化的な多様性を包括する慣習が世界規模で共有されることにより、規範的意識から解放され、表現が広がり、さらに特異性を高めていくでしょう。

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